公益財団法人ベネッセこども基金

助成団体紹介

2023活動報告|他機関や地域外とも連携しながら、子どもの学びや体験を包括的に支援

一般社団法人 ユガラボ

経済的困難を抱える子どもの学び支援

3年目の助成期間を終え、活動の成果をご報告いただきました。事業の詳細などは以下からご覧ください。

採択団体一覧|2021年度<経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成> 2021活動報告|子どもたちの継続的な学びを多地域で支えるプラットフォームづくり 2022活動報告|経済的困難を抱えた子どもたちの安心できる居場所と継続的な学びを多地域で支えるプラットフォーム創出事業

事業の目的 事業の内容と活動の経過 事業の結果 事業の成果 課題および今後の展望 3年間の助成を振り返っての感想

事業の目的

今回、助成をいただいた目的は大きく3つありました。

一つ目は、経済的困難を抱えた児童に対して安心できる居場所の提供と体験・学習支援を行い、育った環境に左右されない成長サポートを行うことです。ユガラボでは助成以前から、ひとり親世帯への食事支援等を行う一環でアンケートを行っており、家庭での学習環境に困りごとがある家庭を認知していました。そういった子どもたちに対して、実際に学習サポートを行い、子どもたちを目標や夢に近づけることができたのは本助成金のおかげです。去年の11月ごろに、あるお母さんが訪ねてきて、「子どもが行きたい高校があるが、学力的に少し難しい。さらに塾に通うお金を捻出するのも難しい」という相談を受けました。残った時間は短かったですが、そこから約3か月間、1対1で支援を行い、見事合格したのです。このエピソードには続きがあります。お母さん曰く、生徒が受験から帰ってくるなり数学を解き直したそうなのです。そして、(本番では解けなかったが)解けたことを喜んだということでした。学習サポートというと、成績アップや志望校合格といったわかりやすいKPIが思いつきますが、第三者である大人が全力で子どもを信じて教え、子どもが一つ一つの問題に向き合って悔しさや達成感をくり返していくことの重要性にも気づかされたエピソードでした。

目的の二つ目は、包括的支援体制の構築です。こちらは一つ目の目的の延長です。学習を教えるのも意義深いことなのですが、児童の中には、複合的に問題を抱えている子も少なからずいます。学校での友人同士の不和や保護者との軋轢などもこれにあたります。ユガラボでは他の関係機関と連携をすることで、支援の相乗効果が生まれると感じています。例えば、他機関から児童と保護者との関係について聞いた場合、学習時間の合間にこちらから「お母さんは最近元気?困ってない?」とケアすることができます。こちらから別機関に相談をさせていただく場合もあります。理想としては、複数機関がそれぞれの打ち手をその家庭に行い、その情報が共有されていることだと思います。ユガラボはこの3年間で学校現場や役場内の担当課、保険福祉事務所といった他機関と子どもの情報交換ができる基盤を構築できました。

目的の三つ目は、地域外連携の推進です。二つ目の目的を少しズームアウトしたものと考えていただければ幸いです。現場団体の役割として目の前の児童を支援することはもちろんですが、構造的な問題に切り込んでいく必要も出てくるかと思います。域内で取り組みが不足していたり、体制が整っていない場合は他自治体の取り組みやノウハウを参考にして、自分たちの主張を補強することが必要かと思います。その意図で、三つ目の目的を設定させていただきました。ここはまだ、情報交換の域を出ませんが、複数の団体が関わることの好事例を創出していければと感じています。

事業の内容と活動の経過

・町内の関係各所と連携し、経済的困難を抱える子どもの個別サポート体制を強化・確立する
前述の目的2にあたります。2年目で民間団体と行政が参加する連絡会を実施することができましたが、リード役の方の異動や個人情報の問題もあり連絡会の実施は難しくなりました。3年目はそれぞれに合わせたかたちで連携構築を行いました。例えば、学校には月報を渡して、生徒が通っている事実をまずは写真で伝えること。加えて対象児童の体験や成長を見える化すること。福祉事務所には、事業説明会を複数回実施してもらいました。教育委員会とは個別に子どものことで都度連絡し訪問することで、情報交換が促進されました。当初は、湯河原町全体で子ども支援を作りたかったのですが、それが頓挫して、雨降って地固まるとまではいいませんが、ユガラボがハブとなって子ども支援の体制ができていると感じています。

・各家庭、子どもの状況に合わせた個別最適化した学び・体験活動を届ける仕組みを確立する
前述の目的1にあたります。学びについては粛々と中高生に勉強を教えました。特に数学と英語に力を入れました。理由としては3年間で内容が地続きになっている割合が高く、一回のつまずきが全体に響くからです。また、子どもたちの努力が点数につながる実感を経験してほしかったため科目数も2つに絞らせていただきました。週1~2回、2時間ずつ教えました。ほぼ個別で指導を行い、個別の得意不得意に対応できるようにしたのも特徴といえます。体験活動は、スライム作りのような小さいものから水族館への遠足のような大きいものまで行いました。経験の格差というものの存在を実感するとともに是正に努めることができました。例えば、水族館への遠足は10人中3人が初めての体験でした。また、体験の提供は子ども同士の交流や地域への参画という要素も含んでおり、子どもたちが趣味や主体性を獲得するということ以外にも副産物を創出するものでした。

学習支援の風景。現在中学3年生の3人に数学を教えている様子
新江ノ島水族館への遠足
新江ノ島水族館にて。体験が広がる
新江ノ島水族館にて。水槽にくぎ付けの子ども

・安定した事業継続に向け、自治体への政策提言および周辺地域の団体とのサポート体制を確立する。
前述の目的3にあたります。周辺地域の団体とのサポート体制については伸びしろが残る結果となりました。ただ、2年目で補助金探しを一緒に行い小さな団体が一回目の補助金をとれたことは成果と言えるかと思います。交流していた団体はほとんどがそれだけを生業としているわけではなく、非営利団体として社会課題に向き合いながら、それを仕事にすることの難しさを実感させられました。有意義な活動をしているが予算がつかない事例が多く、手弁当で事業を行っている団体も少なくありません。こういった団体をどのように応援していくかは業界全体の課題だと感じました。政策提言については、全国の好事例を役場に無理に提言するのではなく、普段関わっている子どもたちがどのように困っているか、どういった成長が後押しできるかをメインに作ってみました。華はない内容ですが、小さくても教育現場の参考になればありがたいです。

事業の結果

・経済的に困難を抱える世帯(7名)への定期的な学習機会の提供
・受験生の志望校合格!
・月に1回以上の多様な学びのワークショップの開催
・他機関(学校、福祉課、保険福祉事務所)との子ども支援を軸にした関係構築
・周辺地域とのネットワーク構築

初島への遠足
初島にて。みかん狩りに挑戦

事業の成果

・他機関連携による子どもに関わる取得情報の増加。そこからの支援の質向上
・子どもたちの体験の増加、それに伴う主体性の向上
・子どもたちの学習意欲の向上と学習習慣の定着
・助成金や運営にかかわる情報交換の発生
・ユガラボの活動に神奈川県も興味を持ってくださり、代表の山田が2024年より神奈川県の総合計画審議会の委員となったこと

課題および今後の展望

【課題】
・周辺地域との有機的なネットワーク構築
・地域内の子どもに関わる機関の関係を整理し、ユガラボのポジショニングと発展ポイントを明確にしていきたい

【展望】
・学習支援の継続
・「第三の居場所」での子どもの成長へのコミット
・保護者支援

3年間の助成を振り返っての感想

満足している部分は、学習支援です。時間を固定化して定期的に子どもたちの学習サポートを実施できたことは、子どもにとっても学習習慣の改善や意欲の増加につながったと信じています。また、成績が上がるといった目に見える成果よりも、いろいろな大人が自分の将来のために本気で関わってくれたという経験を提供できたのが目に見えない成果が大きいと思います。

満足していない部分は、周辺地域の団体との連携です。自治体の垣根をこえた交流や提言などができれば日本全体にとっても好事例になると思っていたのですが、思ったよりも意志の統一や個々の強味を活かした支え合いを演出できずに時間が経ってしまいました。時間をかけて、当初の目標に向けて前進したいと思います。

一般社団法人ユガラボ

代表理事

山田貴子さん

慶應義塾大学環境情報学部卒、2009年同大学院政策・メディア研究科修士課程在学中に株式会社ワクワーク・イングリッシュを設立。フィリピンの貧困層の若者と一緒に、生まれた環境に関係なく、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指してさまざまな事業を立ち上げ。日本では湯河原町で一般社団法人ユガラボの代表理事も務めながら、軽井沢にも拠点を置き、地域活性活動に取り組むほか、慶應義塾大学の非常勤講師なども務めている。

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