コラム
防犯 改善しよう、学校での防犯指導
専門家コラム:防犯編VOL.92
担当:市民防犯インストラクター 武田信彦
より伝わりやすく見直しされた、小学校での防犯指導
市民防犯インストラクターの武田信彦です。4月となり、新年度を迎えました。小学校では年間行事予定がほぼ決まっている頃ですね。その中には、児童を対象とした「防犯教室」や「セーフティ教室」も組み込まれていると思います。私も各地で防犯教室等の講師を務めていますが、全国的には所轄の警察署から警察官が訪れて防犯指導を行うことが多いのではないでしょうか。
さて令和8年3月、警察庁から全国の警察本部へ通知が発出されました。警察官が行う、小学生を対象とした防犯指導の留意点、ポイント、コツがまとめられたものです。これまで、各警察本部や現場の警察官に一任されていた防犯指導について、警察庁からあらためてその意義や方向性、注意点等が示されたのです。この通知が発出されるにあたり、私がたたき台の作成と監修を務めました。「なぜ、防犯指導が必要なのか」「どのように伝えればよいのか」「どうしたら伝わりやすいのか」...といった現場の声を反映し、具体的なポイントを提示しました。今後、研修等を通して、実践的なコツを共有できればと思っています。
なにより大切なことは、①地域における見守り・助け合いをベースとした子どもの防犯対策を正しく理解した上で、②子ども自身がもつ防犯力(生きる力)を高める視点で指導を行うことです。なお、防犯指導のポイントについて何度か取り上げていますので、ぜひご一読ください。([コラム63]、[コラム64]、[コラム87]、[コラム90]など)
実は少ない、中高生への防犯指導
ところで、前述はあくまでも"小学生"を対象とした防犯指導についてです。中学生や高校生への防犯指導については、ほぼ整備されていないのが現状と言わざるを得ません。生徒むけの「防犯」として扱われる内容をみても、万引きや違法薬物などがテーマとなる加害防止や犯罪行為への注意喚起の傾向が強いものや、学校への侵入者対応訓練を「防犯訓練」として行っているものが見受けられます。「防犯の基礎は小学生で身につけているよね」「もう、自分の身は守れるよね」といった、大人の側の意識=誤解が透けて見えます。中高生になれば、「身を守るための防犯指導」は不要なのでしょうか?いえいえ、体力も知力も育まれる中高生だからこそ、防犯への正しい理解と具体的な指導が必要なのです。実際、各地で教職員研修を担当する中でも、中学校や高校の先生から「生徒へ防犯指導を行いたい!」といった声を多くいただきます。

私が担当する範囲でも、中高生対象の防犯教室はとても少ないのが現状です。一方、ここ数年で少しずつ増えてきている感触もあります。たとえば神奈川県では、県が取り組む地域防犯推進の一環として高校での出前講座に取り組んでいます。防犯の必要性、地域での見守り・助け合いの重要性、そして、一人ひとりの防犯力を高めるコツを学ぶ内容です。50分授業という限られた時間の中ですが、①地域防犯と、②個人の防犯について、画像を用いた講義と、声や体を使った実技を通して体験的に学ぶプログラムを行っています。また、長崎県や神奈川県内の中学校では、公益財団法人ベネッセこども基金との協働事業として防犯教室を行いました。それぞれ、安全担当の先生が自ら参加した研修や口コミで防犯教室の内容を知り、相談いただいたことがきっかけでした。
なお、当方のWEBサイトでは、中高生向けの防犯指導で活用いただける配布資料を公開しています。ぜひ活用ください。[こちら]
コミュニケーションを否定しない防犯指導を
中高生への防犯指導では、個人の防犯力を高めることだけではなく、人が関わることで地域全体の防犯力を高めることができる点も伝えています。たとえば、登下校で町中を歩く際は、周囲に「目」と「意識」を向けることで自らの安全を確保できると同時に、地域住民や小学生たちの安全へも寄与することができるのです。「歩きスマホ」などしている場合ではありません。また、人とあいさつを交わすことは、お互いを助け合う基礎力になり得ます。
いま、防犯を理由にして、人とのコミュニケーションを避ける傾向が加速しています。地域で防犯活動に取り組む皆さんからも、「児童・生徒があいさつを返してくれない...」「見守りがしにくい雰囲気になってきた...」といった声が聞かれます。日本の社会が直面する現実として、通学路の安全は地域の皆さんの見守り・助け合いがなければ成立しにくい状況があります。万が一のとき、子どもたちが「たすけて!」と言える、そして「大丈夫か!」「助けるよ!」と受け止めていただける存在が不可欠なのです。
「知らない人に気をつけろ」「不審者に注意」といった一辺倒な指導では、児童・生徒の防犯力が高まらないだけではなく、ていねいに育まれてきた見守り・助け合いの環境をも壊してしまいかねません。人と人とのゆるやかなつながりを大切に、コミュニケーションを大切にする防犯指導が広がるよう、来年度も発信を続けてまいります。
武田 信彦 さん
犯罪防止NPOでの実践活動を経て、2006年よりフリーの講師として活動。「市民防犯」のパイオニアとして全国で講演やセミナーなど多数実施するほか、中央省庁の助言も務める。こどもたちを対象とした体験型の防犯セミナーも好評を得ている。著書には「活かそうコミュ力!中高生からの防犯」(ぺりかん社)ほかがある。